2018年 04月 18日
ウユニからポトシに移動した。 行きたかったのは鉱山ツアー。 もう使われてない鉱山の見学はいろんな所でできても、現在進行形で稼働してる鉱山に入れるツアーはそうそうないんではないかと思う。 Cerro Rico セロ・リコ、豊かな丘と呼ばれる標高4000mを超えるポトシの鉱山。 負の世界遺産と言われている。 スペイン統治時代、大量の銀を産出してスペイン帝国の繁栄になくてはならない存在だった。 スペイン語でお金の事を"la plata"と言う。 英語にすると"the silver"、銀=お金だったこの時代にできた言い方なのだろう。 このセロ・リコから掘り出された銀の量は、当時のヨーロッパの経済事情を一変させるほどの量で、ボリビアからスペインまで純銀の橋が架けられると言われたほど。 そして、この鉱山で命を落とした人の骨で、同じくボリビアからスペインまで届く橋が作れると言う。 その数800万人とも言われている。 賃金のかからない労働力として、先住民とアフリカから連れてきた奴隷たちは次々に使い捨てられた。 特にアフリカからの奴隷たちは、いきなり標高4000mに連れてこられ、バタバタと死んでいったという。 さすがにこれはまずいと思ったスペインは、標高の低い場所に黒人奴隷たちを連れていき、そこでコカの栽培をさせた。 今でもアフロボリビアーノと呼ばれる、見た目は黒人だけれどボリビアの民族衣装に身を包んでいるボリビア人、当時の黒人奴隷たちの子孫が住んでいる、コカの葉の産地がある。 全盛期は南米最大人口を誇る都市にまで発展したポトシも、銀が取りつくされるとみるみる廃れていった。 その後、錫など銀以外の資源が見つかり多少の盛り上がりは見せたものの、もちろん昔のような繁栄をもたらしてくれるほどではない。 残った穴だらけのセロ・リコと、湧き出てくるお金のお陰で建てられた豪華な街並みが世界遺産に登録された。 そして今もなお約15,000人の鉱夫たちが多くを手作業で採掘し続けている。 環境は劣悪だ。 鉱夫の平均寿命は4~50歳と言われている。 いつどこが崩れるかもわからない、いつどこから有毒なガスが出てくるかもわからない。 スペインから独立後は国が管理しており、それなりに鉱夫に対する補償もあったそうだが、産出量が減ると国は権利を手放した。 今は組合のような組織がいくつかあり、そこに登録することでその組合が所有するエリアでの採掘ができる。 ただしあくまで出来高制であり、ダイナマイト等を含む必要な道具はすべて自分たちで買わなければならず、また保険や補償のようなものも一切ない。 鉱物の抽出技術が上がり収入が見込めるようになると、国がまた鉱山の所有権を取り戻そうと動き出したが、課税率がぐんと上がり、鉱夫たちの稼ぎが減るのがわかりきっていたので、組合皆でどうにか阻止したそうだ。 ポトシの町で普通に働く人の平均月給が2,000ボリビアーノ(約3万円)なのに対し、鉱夫の平均月収は4,000ボリビアーノ。 運よくいい鉱脈が見つかれば6,000ボリビアーノ稼げる事もあると言う。 そしてもちろん、何も見つからなければ収入がゼロということもあり得るのだ。 そんな鉱山で、実際に採掘してるところを見学できるツアーを、ポトシの町からいくつもの旅行会社が出している。 大抵は鉱山での労働経験のある元鉱夫のガイドが、自分とコネクションのある組合の所有するエリアを案内してくれる。 ツアー代金は1,500円ほどで、その一部が謝礼として組合に払われる仕組み。 旅行会社によってツアーの内容、そして鉱山内で行けるエリアも違い、場所によって活気も全然違うので、旅行会社はしっかり選びたい。 私は結局2回、それぞれ別の会社でツアーに参加した。 なかなかハードな工程で、服も汚れるので、まず支給されるカッパの上下に着替える。 そして長靴、ヘッドライト付きのヘルメット。 軍手、マスクは自分で準備しておいたほうがいい。 ものすごい砂ぼこりで、梯子を上ったり、穴にもぐったり、穴を降りたり、穴を上ったり、所々手をつかなければ進めず手も汚れるので、カメラは自己責任で。 手ぶらで行くのが一番。 鉱山に行く前に、マイナーズ・マーケットと呼ばれる、鉱夫たちが必要なものを買いそろえるための店に行き、鉱夫へ直接手渡すお土産を買う。 ここで買うのは、コカの葉、ジュース、96度のアルコール、そしてダイナマイト。 鉱山の中で、鉱夫たちは食事を取らない。 砂ぼこりがひどいのと、ただでさえ標高が高く更に鉱山内で酸素が外よりも薄くなっているのに、胃に食べ物を入れると、消化するエネルギーに体内の酸素を使ってしまって苦しいからだそうだ。 そのため、鉱山の中で食事を取る代わりにコカの葉を噛み続けて空腹を紛らわす。 コカの葉は酸素の薄さからくる頭痛も解消してくれる。 96度のアルコールは、口内の消毒、そして朝と夕、仕事の始まりと終わりに行うお祈りに、さらには火を点して、酸素が十分にあるか、または有毒ガスが発生していないか、を時々確認するために使う。 火がつけば問題なし、火が消えれば急いでそこから脱出しなければ死んでしまう。 そしてダイナマイト。 手っ取り早く採掘するには必要不可欠なもの。 もちろん危険は伴う。 使いたい場合は鉱夫が実費で買わなければいけないので、手土産として持っていくと喜ばれる。 ガイドがダイナマイトの使い方を丁寧に説明してくれる。 手土産は20ボリビアーノ程度(300円ほど)しかかからない。 ダイナマイトも起爆剤のアンモニアと導火線の1セットで20ボリビアーノで買える。 いよいよ鉱山に向かう。 町よりも標高が上がる。 入口に到着。 無数に開く入口の一つから中に入る。 前かがみにならないと歩けない高さしかない。 少し進めばもうヘッドライトの明かりなしでは何も見えない。 鉱物が溶け出したすごい色の水が所々溜まっている。 硫黄のにおいがかなりする。 トロッコに掘り出した石を積み込む鉱夫たち。 すぐに脱線する1~2トンの石を積んだトロッコを押す。 外まで押し出し、中身を空けたらまた中に戻っていく。 手押し車も入れない場所からは、石を入れた何十キロもする袋を担いで歩いてくる。 ダイナマイト用の穴を開けて、ダイナマイトを詰める。 導火線は3分間。 着火して3分の間に遠くに離れる。 けれど、奥に行けば行くほど、しゃがまないと進めないほどの狭い通路、数メートルの高さの縦穴などばかりで普通に歩ける場所はないので、3分で離れられる距離はそう遠くない。 ドスンと爆破の音が通路に響く。 爆破直後は砂ぼこりで近づけないので少しの休憩。 鉱物を含むお金になる石を見せてくれた。 この石に入っている2㎜ほどの小さな黒い点が銀らしい。 トロッコ1杯、2トンの石を運び出して、そこから取れる鉱物は一体何グラムくらいになるんだろうか。 酸素の薄い鉱山の奥深く。 常に命の危険と隣り合わせ。 空気の悪さで喉や肺を痛めるらしい。 そこで働く鉱夫たち。 若い人も多い。 父親、親戚、家族で働く人も少なくない。 働きたいと来るものは拒まない。 家柄が良くなくても、学がなくても、体力さえあれば誰でも働ける。 うまくいけば、普通の人より稼げる。 うまくいけば。 2時間ほど鉱山の中をいろいろ見せて回ってくれた。 外に出ると、ようやくまともに息ができる。 外の空気だって決してキレイなわけではない。 砂ぼこりと排気ガス。 それでも鉱山の中の空気に比べれは、森林で深呼吸するくらいな気分になる。 鉱夫たちはまた我先にと空になったトロッコを押して中に戻っていく。 期待以上に重みのあるツアーだった。 無計画に、アリの巣のように何百年も掘り続けられてきたセロ・リコ。 いつ、この山自体が崩れ落ちてもおかしくはない。 それでも鉱夫たちは毎日朝から掘り続ける。 町から見えるセロ・リコ。 鉱山とは別世界の、少しあか抜けた感じの町並みと人々。 スマホを持って町を歩く若者、かわいい制服を着て学校から出てくる子供たちを見て、もしかしたら彼らの家族の誰かは、家族を養うために鉱山で働いているかもしれないと思わずにはいられなかった。 町中にある造幣所もなかなかの見ごたえだった。 ツアーでしか入れないので、ガイドさんが歴史を丁寧に説明してくれる。 カメラの持ち込みが有料だったので、写真はなし。 セロ・リコで取れた銀で銀貨を作っていた場所。 ここでも多くの奴隷が過酷な環境下でバタバタと死んでいった。 当時、銀貨の鋳造の過程で水銀を使っていたので、そこで働かされた奴隷たちは、3か月と持たず死んでいったそうだ。 次々と使い捨てられた、お金のかからない奴隷たち。 スペインにとってお金の湧き出てくる場所だったポトシ。 今、世界中で認知されているドルマーク『$』、これ、ポトシで作られていた銀貨に刻印されていたPOTOSIを意味するPとTとSを重ねたマークが元になってるって知ってました? ご飯も安くておいしいし、食べ歩きも飽きない。 標高が4000mを超えてて、坂が多く、町歩きだけでなかなかシンドイことを除けば、とても居心地のいい町でした。 ボリビアに行く人は、ウユニだけじゃなくてぜひポトシにも足を延ばしてください。
by aya-papaya
| 2018-04-18 08:58
| ボリビア
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